雨の夜、橋の上で、ヒヤリ

私にはまだ消化できない思い出がある。

あれは3年前の10月の雨のそぼ降る夜のできごとだった。

私は夜9時に仕事を終え、その日は夫が迎えに来てくれて一緒に帰る道中の事だった。雨脚が次第に強くなっていた。帰宅する途中にアーチ形の橋があり、その橋はお天気のいい日などは昼間は魚を釣る子供がいたり、川面を楽しげにみつめている人がいたり案外平和な情景しかなかったはずだった。「橋 イラスト 無料」の画像検索結果

しかし、その日は橋の真ん中辺りの手すりの近くに人影があった。それは女性らしき人影で、力なく横座りをしていた。本当に体を投げ出している態であった。右横には大きめの旅行鞄が置いてあった。そばを通る人はいても誰も彼女に声をかける人はいなかったようだ。

しかし彼女に近づくにつれ何かほっとけないものを感じ私は声をかけた。「どうしたの?」と聞くと「死にたい」と言う。

夫は研究者だが、研究論文の締め切りが迫っていてここで時間を費やすことなどできないことは解っていた。しかし、彼もまた人の命がかかっているのでこの時ばかりは自分の仕事より今この時を優先してくれた。

これはただこごとではないと思い、彼女は髪も洋服も雨にぬれ、びしょ濡れで、その上地べたに座っているので、1本しかない傘を3人いても彼女にさした。それも膝を折って結構苦しい姿勢で。夫はというと当然傘から外れ、案の定翌日熱を出したのだが・・・申し訳ない、ま、それはおいといて。「雨 イラスト 無料」の画像検索結果

彼女に理由を聞くと、同室の先輩に「おまえは死ね」といつも言われるという。それに耐えかねて田舎に帰ろうと母親に電話したら「おまえは自分で決めてでていったのにそんなことで帰るのか、もすこし頑張れ」と言われて最後の砦に拒否されたという。

自分の居場所がなくなり、この橋の上で川に飛び込むと考えたのだろうか?

そこでふと彼女の体の左側に目をやると、女性が産毛を剃る時のかみそりが2本置かれてあるのを私は見逃さなかった。

おお、なんという危機一髪!良かった。私たちが見つけて。神様がきっと私たちに助けることを命じたのね。

彼女はある球技団体に所属して将来を嘱望されているらしい。父親は地元の名士であるとも。そっか~本音を言っても聞いてくれる人が周りにいないんだね。だから消えてしまいたいと思う。そして自死に走るわけだ。

そんな一触即発の状態の女の子に遭遇して、その頃お客様でお身内を自死で亡くした人が数人いらしてたのでその方の刹那的な心情を想い私は辛くなり泣けてきた。

もう夜10時近くを回っていた。彼女はきっと空腹であろうと思い、そして人は空腹だと絶望感が増すものなのを私は知っていた。

「お腹空いてない?」と言ったら「うん」と言ったので私はルフランから買ったお気に入りのパンを3個の中から2個をあげ た。いや、全部あげた気もする・・・少し気持ちがおさまったのかそれをたいらげてくれた。そうなればもう変な気は起こさないだろうと思った。「パン イラスト 無料」の画像検索結果

私たちは冷たい10月の雨の路上で心理カウンセリングをしていた。そして夫は雨の中傘も差さずただじっと見守ってくれた。

もし、私たちが素通りすれば、この寒い雨の中川に飛び込むか、カミソリで手首を切るかのどっちか彼女はしたのだろうか?と思うとヒヤリとしたものだ。

悲惨な様子が収まってきたようにも思えたので、ここでこうしても風邪をひくばかりだし、残念ながら自宅にはお連れもできないので、お巡りさんに保護してもらうことに決めた。本人にも了解をとり、お巡りさんに夫から電話をしてもらい、サイレンは鳴らさないでと伝言する。30分近く待ったような気がする。とてもその時間は長く感じたものだ。もしかしたらもっと早かったかもしれない・・・

お巡りさんが「どうしたの!」と強い口調で彼女に聞くので、私は「すみません。彼女傷ついているので優しく話してください。できれば優しい女性のカウンセラーの人がいたら其の方にお願いします」と諌めた私。そうしたらそのお巡りさん、事が事だけに素直にハイと言ってくれた。 パトカー1台と白バイ1台が彼女の身柄と旅行鞄とカミソリ2丁をひきとってくれた。私たちはその影が消えるまで見送っていた。「白バイ イラスト 無料」の画像検索結果

夫は研究論文を急がねばならず一足先に雨の中走る。

本当にひやりとする光景だった。でもとりあえず1件落着だ!

不思議にもその彼女の故郷やその彼女の仕事の境遇が、私がその時縁結びをしていた女性のそれと瓜二つであったこと。そしてそのパートナーなる人の故郷や過去愛した人の夭逝の光景と一部似てることだった。

なんという偶然なのだろうか、それとも必然か。

何を訴えたかったのだろうか?今でも忘れられない出来事だった。

彼女はその後無事生きて頑張っているでしょうか?

右手でしたことを左手に教えてはいけないという。いわゆる善行は隠れてしろと仏教の教えである。だから3年は書かなかった。しかし書かないと私の心のヒヤリ感が成仏できないのだ。なんせ私は凡人であるからして。

3年前の彼女、元気で生きていてくれてたらいいな。

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