白い風のような女(ひと)

あれはたしか5月・・・青葉が朝のしずくに優しく濡れる頃。
季節は初夏だったと思う。
それは、私が小学生のころ乗っていた汽車で出遇った人だ。

その汽車は走るとガタゴトと音がしていた。
今みたいに汽車は全車エアコン完備などではなかった。
各車両の窓は大きく開けられ、窓外には緑の水田がまるでスコットランドの絵画のように拡がっていた。

そして、初夏の風はまるでS字を書くようにゆるやかに流れていた。
その窓辺にあの人はいた。
窓際の桟にひじをついて、長いけれど軽やかなさらさらとした黒髪をなびかせて、
そして白く透き通るようななめらかな素材のドレスを身につけていた。
組んだ足が横に長く伸び、私の目にとても優雅にまた大人に映った。

「どこへ行くの?」
その人はそう私に聞いた。
私ははにかみながら行き先をぽつんとこたえた。「カゼミサキ」

そのあと、何かとてもやさしいセピア色のような香りがした。

そうだ!小学5年生の初夏だったのを思いだした。

母のいない私に、あの人はとても美しく、やさしく見え、私は、ほんの少しほほが紅潮するようなときめきを感じた。

大人になった今でもあの日の光景ははっきりと浮かびあがり
初夏のさわやかな風とともに思い出される。

あのひとは今どこでどんな暮らしをしているのだろうか?
まるで白い風のような女。
あの人に逢いたい・・・

※カゼミサキ仮名です。(平成18年6月記)