タツおばさん

タツおばさんはよくうちへ遊びに来ていた。
美空ひばりに似た顔をして、いつも父に何か急かすような、小言のような
ものいいをしていた。父の姉だった。

タツおばさんがそばにくると粉おしろいのような香りがして
私はいつもうっとりした。

そしてきわめつけは真っ赤な口紅
あのひとが席をはずしたとき、私はこっそりポーチからころげおちた臙脂色の口紅を手にとり、丸い筒から紅をスライドさせてだしてみた。そしておそるおそる香りを嗅いでみた。
すると鼻をくすぐるような甘い香りがした。

あれは朝顔が、子供の蛇のようにつたにからまり咲いていた夏。
朝顔のむらさきと口紅の臙脂がまるで花火のように交錯していた強烈な景色!
そしてタツおばさんは白地にむらさきの浴衣をきていた。

タツおばさん・・・
いつもお年玉をくれた人

彼女の息子は私よりひとつ年上だった。
彼は学生のころは生徒会長を務め、野球部のピッチャーだった。
私と二つ年上の兄と三人でよく栃の実をとって遊んでいた。
私は彼がくるとなぜかどきどきしていたし、楽しかった。

なのにあるときから私たちがいっしょに遊ぶのを父は好まなくなった。

月日は経ち、彼は教師になって妻を娶った。そしてタツおばさんと三人で暮らした。

タツおばさんはとても口うるさい人だった・・・いい人だったけど。
あとで聞いた。あのひとは今老人ホームにいるって。なぜ?
口うるさい人だったから?
でも私の父よりも長く永く生きている。

もしかしたらあの口紅が、あの人を長生きさせているのだろうか?
口うるさい唇をいろどる口紅の力で・・・
そして口紅をまだつけているのだろうか。タツおばさん・・・

(平成18年8月記)